恐慌前夜

87年のブラックマンデーは、プログラムによる自動売買が引き起こしたものでした。想定外の株価の移動に対してシステムが意図しない反応をしてしまいパニックから暴落に発展していきました。

今回のケースは、サブプライムローンという高度な金融商品の破綻に端を発して、金融の「核兵器」と呼ばれるCDS(Credit default swap:債権保険)が破綻寸前の状況を作り出しています。

サブプライムローンにしろ、とりわけ、CDSなどは、通常の常識では投資に値することなどないリスクの高い商品です。にもかからず、限定した条件のもとでなら機能する状況を数学や統計学を駆使して作り上げているわけです。一人二人のリスクの高い借り手には貸せないが、それを束ねたら信用が高まって、それを商品として売り出してそれ自体を売買の対象とできる・・・。あるいは、CDSは、破綻した債権に対して元本を保証する。いずれにせよ、複雑な数学やコンピュータが可能にした複雑ゆえリスクが評価できなくなって、つまり、リスクが見えなくなって、なんとなく、「信用しても良い」「信用したい」「信用できないはずがない」という幻想に支えられたものです。

株式投資などは、投機であり、未来の市場価格(実体の価値ではなく)を予想して売買します。デタラメな比喩を使うと国や連銀や中央銀行が胴元をして、テラ銭として税金を吸い上げていく博打のシステムだったと言えそうです。日本は莫大なテラ銭をアメリカ国債を買い支えるという形で支払ってきたのですが、不良債権アメリカ国債スワップするという話も出ているようですから、もっと支払う事になるかも知れません。

そういう賭けのゲームにおいて、プレイヤーたちの賭け金を保証する仕組みが、CDSだったのです。一定額の納めると破綻して回収不能になった債権を保証してくれる・・・そういう仕組みです。これって、アホか?です。だって、賭け金は、勝つか負けるかするから、賭けなんであって、負けたときに「賭け金を保証するって何だ?」です。

特殊な限定された状況やアメリカが基軸通貨として機能してアメリカに資金環流する仕組みがあって、その資金が株式投資に使用され続ける・・・というブレトンウッズ体制(71年の金ドル交換停止で機能しなくなった)の亡霊に支えられたものだったのです。

レーガン政権とブッシュ政権のもとで、膨大に膨らんだアメリカの対外赤字は、国内に投資として戻ってくるという不思議な状況にありました。この不思議な状況が作り出した幻想の核をCDSが支えていたのでしょう。
CDSそのものは悪いのではないのですが、それが、マスに広がった時に今回のような世界金融恐慌になってしまう。

情報システムやITにかかわる人間として、87年のプログラム自動売買の例とか、今回のケースとかには非常に興味があります。システムと実際の運用についてどう考えるか、みたいな話でもあります。リスク管理をどうするか、そういう話でもあります。

株をやりたいという友達には常々、言ってきたことがあって、大相場のように、全体が好調な時に個人が投資すれば儲かることもあるだろう。でも、現在のように複雑な状況では、個人は勝ち続ける幸運な人がいても、会社単位で見たら、それは不可能なんじゃないか、と言っています。今のように、賭博性が高くなり、手数料も下がってしまった状況では、個人は儲かっても、証券会社の規模で、ディーラーに投資をさせて収益を上げ続けるのは困難ではない、そういう気がするのです。
リーマンの社員たちは、平均年収3000万とかで、ゴールドマン・サックスは年収6000万が平均だったそうです。今回でも会社は破綻しても引っ張りだこの、ディーラーがいるそうです。

彼らは、勝ち逃げできる人たちです。彼らが派手に暴れたゲームの後始末に、国税が使われます。海の向こうの乱痴気騒ぎに、日本経済や政府や金融機関は翻弄されて、貧乏で借金だらけの日本国民の税金が使われます。
東京三菱UFJとかはその時の市場価格の四倍程度で株式を購入します。
困ったものです。